記事・トーク
週刊ファミ通3/19号 増刊
「FINAL FANTASY VIII」より 植松さんのインタビュー記事
「アカデミックなとこが抜け落ちてる人間なんです。」

顔がこわばっちゃうんですよ。どうやったらうまく笑えるか、
いろんなこと頭の中で考えてたんだけど、何回やっても慣れませんね、あれだけは


写真撮影を終えた植松氏は、照れくさそうにそういいながら席につき、
今回の音楽制作について話をしてくれた。


今回の「FF8」では、初めて生録を使ってるんです。
オーケストラを使ったり歌を入れたりして。

オーケストラはいつかやりたいなとは思ってたんですけど
オーケストラを使ってスタジオ録音をするには、
結構前々からスタジオに予約を入れておいて、ミュージシャン
のスケジュールも確保しておかなきゃいけない。

そんな作業を考えると、「FF7」の時には、それをやっている時間もなかったんで、
やろうと思ってもできなかったんです。
でも今回は9月ぐらいまでにはもう絵コンテができるぐらいまでいってたんですよね。
だから、音入れが10月とか、そんなけっこう早い時期を見込めたんで可能になったんです。

まあ、今回はオーケストラができただけでもうれしかった、っていうかたのしかったですね。
人間の弾いている音って違うじゃないですか、シンセサイザーとか内臓音源の音と。
表情も全然違うし。そういう音楽ができたことを思うと、オーケストラってすごいなと思うんですよね


「FF8」のすべての楽曲を手がけた植松氏。
作曲中に自分の頭の中で奏でた理想の音と、オーケストラが奏でた音に
差はなかったのか尋ねると、植松氏は取り出したタバコに火を付けぬまま、
収録時のエピソードをおしえてくれた。


頭にあったものより、もっといい音とになりましたよ。
僕なんかオーケストラ専門じゃないんで、圧倒されっぱなしでした。
ただ、今回のオーケストラの曲(オープニングとエンディング)にしても、
専門家の人が聞いたらどう思うか、僕にはぜんぜんわかんないですよね。

と言うのもですね、今回の録音の際にトランペットの方がね、
僕の書いた譜面と違う音を吹いちゃうんですよ。
で、その方にそこ違うんですけどって言うと、違ってないって言うんですよ。
でも、確かに違ってるんです。
それでいろいろ押し問答して何回かやってもらったんですけど、
やっぱり違ってるんですよ。

なんでそういうことが起きるかっていうと、ルールがあるんですよ、
クラシックには。低い音で平行移動しちゃいけないとか。
あと専門的なこと言うと、”3度の音”が下にいちゃいけないとか、
そういうルールがいくつもあるんです。
でも僕はクラシックの理論とかわかってないし、そういうのは全部無視してるんですよ。
僕は3度の音なんか、欲しかったら平気でどこにでも持ってきちゃうから。
クラシックじゃちょっと使わないようなテンションのジャズ系の
不可思議な和音とかも使っちゃうんですよね。

そういうふうに作ってるんで、そのトランペットの方は
おそらくその響きに慣れてなかったんだと思うんです。
でも、僕の欲しい音はその方が吹いた音じゃなく、
クラシックでは不自然とされる音だったんです。
その音を吹いてくれないと、僕の中の緊張感が保てなかったんです。
まあ、そんなこともありました。

だから僕の作ってる曲は多分、音楽学校のテストだったら
はじかれちゃうんじゃないかな。
うん、間違いなくはじかれるでしょうね(笑)

独学で構築してきた独自の音を持つ植松氏。
そんな植松氏の音楽観とは、いったいどのように確立されてきたのだろうか。
いまだ火のつかないタバコを指に挟んだまま、植松氏は話し続けた。


僕は音楽に関する 本格的な教育を受けてこなかったんです。
だから音楽にはコンプレックスみたいなものを持ってるんですよ、苦手意識っていうか。
僕が音楽に興味を持ったのは、中学生のときに深夜放送を聴き初めてからで、
そのあたりで急に音楽をやろうと思い出したんです。

ところが、まわりで音楽目指してるヤツをみたら、
6歳のころからピアノ習ってたりするし、ましてやプロになろうというヤツは
音大に行ったりしてちゃんと音楽の勉強をしてるんですよね。
でも、僕はそういうのとぜんぜん違うところを生きてきた。
そういうアカデミックなとこが抜け落ちてる人間なんですよね。
だって、ティラリラリラリラリって、「エリーゼのために」
なんていうのも弾けないんですから。

ただ楽器をいじってることが楽しかっただけで、
音楽を習ったことがないから譜面も読めないし、他人が作った曲も
弾けないわけじゃないですか。
だから自分の作った曲を弾くしかなかったんです(笑)。
うん、譜面読めないんだったら自分で作っちゃえ、みたいなのがありましたよ。
で、それでいろいろ作ってるのがおもしろかったんで、ひょっとしてこれは
おもしろい世界なのかなって。
それで今に至るんですけどね

シリーズ第1作から「FF」の音楽を一手に担ってきた植松氏。
だが、氏と音楽との関わりは以外なものだった。
おそらく当たり前のように音大を出てオーケストラの一員に
なった人たちからすれば、それは奇異なものではなかったのだろうか。
ようやくタバコに火をつけた植松氏は・・・。


オーケストラの人たちは、僕がまさかアカデミックのかけらもない
人間だったとは思ってないでしょうね。
本当に自己流でこれまでやってきたんですよ。
誰かに教えを乞うなんてこともなくね。
うーん、学校の勉強しかり、ダメなんですよね。
人に教えてもらうのが(笑)。あれがダメでねえ
---1999/03/19号週刊ファミ通より抜粋。
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